糖尿病

糖尿病とは

インスリン作用不足(インスリンは膵臓で作られるホルモンで肝臓、筋肉、脂肪組織などに作用しブドウ糖の細胞内への取り込み、エネルギー利用や貯蔵、タンパク質合成、細胞増殖などを促進します)により慢性的な高血糖状態(血液中のブドウ糖濃度が上昇)をひきおこす代謝疾患です。
病因は1型(通常インスリンの絶対的欠乏があり生存のためインスリン注射が不可欠。若年者に多い)、2型(インスリン分泌低下とインスリン抵抗性ーインスリンが効きにくい状態を様々の程度に併せ持った状態。成人発症が多く、肥満合併多い。また家族歴濃厚。)、妊娠糖尿病、その他特殊な病態と分類されます。

ここでは最も頻度が高く身近な「2型糖尿病」に関してお話ししたいと思います。

「2型糖尿病」はなぜ治療が必要なのか?

それは合併症がおきるからです。
急性合併症の糖尿病昏睡などもおこりえますが、最も重要なのは各種の慢性合併症です。慢性合併症は糖尿病に特徴的な「細小血管症」と糖尿病以外でもおきるが糖尿病で頻度の高い「大血管症」に大きく分類されます。
「細小血管症」は3大合併症ともいわれ「網膜症」、「腎症」、「神経障害」を意味します。

細小血管症

糖尿病網膜症

「糖尿病網膜症」は成人の失明の原因のナンバー2です(ナンバー1は緑内障)。
進行の状態により正常、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症に分類されます。増殖前網膜症以降は眼科医による光凝固(レイザー光線で眼底を灼き眼底出血を未然に防ぐ)や 硝子体手術(網膜剥離や硝子体出血に対して)が必要になります。
何れにせよ糖尿病であることがわかった時点で眼科医を受診し、定期的な診察を受けることが大切です。

糖尿病腎症

「糖尿病腎症」は血液透析(腎不全になると尿が排出できず血液中に老廃物や過剰の水分が溜まり生存困難となる。これに対して血管より血液を抜き出し器械で浄化濾過し体へもどすこと)の導入原因のナンバー1です。
進行の程度により5段階に分かれて下記表のように呼ばれています。

表を左右にスワイプしてご確認ください。

第1期
(腎症前期)
第2期
(早期腎症期)
第3期
(顕性腎症期)
第4期
(腎不全期)
第5期
(透析療法期)

腎症進展の指標として尿中アルブミン排泄量が重要です。随時尿で30mg/gクレアチニン以上で早期腎症、300mg/gクレアチニン以上で顕性腎症と診断されます。

腎症進展予防に重要なのは厳格な血糖管理、血圧管理及び蛋白摂取制限(早期腎症以降)です。特に血圧は収縮期130mmHg未満/拡張期80mmHg未満が目標となります。
また降圧剤の第1選択もアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬など腎保護作用の強い物が使用されます。
蛋白制限の度合いも病期により異なるため個別の栄養指導が必要となります。

糖尿病神経障害

「糖尿病神経障害」は多発神経障害と単神経障害があります。
単神経障害は外眼筋麻痺や顔面神経麻痺が多く比較的予後良好です(約3ヶ月でほぼ全例が治癒します)。
一方、多発神経障害は両足の感覚神経障害(しびれ、痛み、感覚鈍麻、異常感覚など)や自律神経障害を指しかなり難治で苦痛を伴います。足の感覚神経障害は足潰瘍や壊疽の誘因になることもあります。自律神経障害は起立性低血圧(立ちくらみ)、神経因性膀胱(尿意がわからず残尿増加)、勃起障害、消化管運動障害(便秘・下痢など)、無自覚性低血糖、無痛性心筋虚血(胸痛がわからない心筋梗塞)など多岐にわたりADL低下や生命予後に大きく関係します。いずれも特効薬はなく対症療法になります。

大血管症

「大血管症」は「虚血性心疾患」、「脳血管障害-主に脳梗塞」、「下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)」など動脈硬化性疾患を指します。

糖尿病の方は健常人に比較して心筋梗塞や脳梗塞を約3倍発症しやすいといわれています。ASOも糖尿病の方の10~15%に合併するといわれ足潰瘍・壊疽に大きく関連します。これら動脈硬化性疾患は高血糖の程度が軽い境界型でも同程度の発症率を示します。
内臓脂肪型肥満を基盤にするメタボリック症候群に該当する方や喫煙者では更に危険性が上昇します (喫煙することにより糖尿病患者の心筋梗塞は更に2.6倍にアップーつまり非喫煙の健常者の7.8倍)。 予防の方法は禁煙、食後血糖改善、血圧管理ー収縮期130mmHg未満/拡張期80mmHg未満、 脂質管理ーLDLコレステロール 120mg/dl未満、HDLコレステロール 40mg/dl以上、中性脂肪 150mg/dl未満などが重要です。

糖尿病の治療

血糖値をコントロールすることで合併症(細小血管症)の発症・進行を抑制することが可能であると言われています。血糖値をコントロールするための基本的治療は「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」です。
では血糖コントロールの指標とは何でしょう?

血糖コントロールの指標(めやす)

1番の目安は「HbA1c」です。過去1、2ヶ月の血糖値の平均を反映します。
合併症予防のためには7.0%未満を目指しましょう。
対応する血糖値として、空腹時血糖値130mg/dl未満および食後2時間血糖値180mg/dl未満がおおよその目安です。

食事療法

一般的な注意としては

  1. 腹8分目
  2. 食品の種類はできるだけ多く
  3. 脂肪を控えめに
  4. 食物繊維を多く(野菜、海草、きのこなど)
  5. 朝・昼・夕の3食を規則正しく(3食の間隔及びカロリーを均等に)
  6. ゆっくりよくかんで  などがあげられます。
    またスナック菓子やジュース(甘い炭酸飲料など)は禁止です。アルコールも1日25gまでとしてください。
1日に必要なエネルギー摂取量

まずご自身の「標準体重」を計算します。
標準体重(kg)=身長(m)x身長(m)x22
次に、ご自身の「身体活動量」を選択します。

身体活動量の目安

軽労作(デスクワーク、主婦) 25~30kcal/kg標準体重
普通の労作(立ち仕事が多い職業) 30~35kcal/kg標準体重
重い労作(力仕事が多い職業) 35~kcal/kg標準体重

両者を掛け合わせた物がエネルギー摂取量となります。
エネルギー摂取量(kcal)=標準体重(kg)x身体活動量(kcal/kg)
私の場合、身長176cm(1.76m)ですから標準体重は68kgとなり、デスクワーク主体ですので1700~2040kcalとなります。
このエネルギー摂取量を炭水化物、蛋白質、脂質に割り振り、ビタミンやミネラルも適量に摂る必要があります。この際、「食品交換表」を使用した個別栄養指導が必要となります。詳細は管理栄養士にご相談ください。

運動療法

期待できる効果は

  1. 慢性効果ーインスリン抵抗性改善
  2. 急性効果ーブドウ糖や脂肪酸の利用促進による血糖低下
  3. エネルギー消費による減量ー食べ過ぎを相殺するのは無理ですが.......
  4. 加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗鬆症の予防に有効
  5. 心肺機能や運動能力の向上
  6. 爽快感など精神的効果  などです。

運動の種類は「有酸素運動」が主体で歩行、ジョギング、水泳などがふさわしいと思います。運動の強度は運動時の心拍数で判断し、50歳未満では120/分以下、50歳以上では100/分以下で行うべきです。体感的には「楽である」、「ややきつい」相当までにしておきましょう。
運動の頻度は可能でしたら毎日が望ましいのですが、無理なら隔日でも良いでしょう。
運動の消費エネルギーとしては160~240kcal程度が適当と言われています(ウオーキングで1万歩程度)。
運動療法は食後30分から1時間経過してから行うのが望ましいといわれています。
また準備運動、整理運動は必ず行いましょう。さらに重要なことは血糖コントロールが著しく不良な方、糖尿病合併症の進行した方、整形外科的問題をお持ちの方などは運動療法によりかえって悪化する可能性があり、運動療法開始前に全ての方が主治医に相談しメディカルチェックをうけるべきです。

薬物療法

2型糖尿病の方で食事療法及び運動療法のみで充分な血糖コントロールが得られない場合、薬物療法を追加することになります。
薬物療法では経口血糖降下薬が主体となりますが、やはり充分なコントロールが得られない場合にはインスリン(皮下注射)も使用されます。要はどんな薬が使用されたとしても低血糖などの副作用がなく良好な血糖コントロールが維持され各種合併症が予防できればよいのです。
インスリン使用になっても落胆する必要はありません。

経口薬

「経口薬」は患者さんお一人お一人の「インスリン分泌能低下」と「インスリン抵抗性増大」の程度を鑑み選択されます。
「インスリン分泌能低下」に対してはスルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬を、「インスリン抵抗性増大」に対してはチアゾリジン薬やビグアナイド薬を使用します。

また食後高血糖改善のため炭水化物の分解吸収遅延の作用を持つアルファグルコシダーゼ阻害薬も使用されます。これら経口薬も単剤だけではなく様々な組み合わせで併用されたり、インスリンと使われる事もあります。

さらに平成22年には今までの薬と作用機序の異なるインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬ー経口薬、GLP-1受容体作動薬ー注射薬)という低血糖症や体重増加をおこさない薬が発売されました。そして、平成26年にはSGLT-2阻害薬という尿糖排泄量を増加させ、血糖を下げる薬も発売されました。

インスリン

「インスリン」は基本的に「インスリン分泌能低下」が強い方に使用されますが、 普段に経口薬を使用されている方でも手術時や感染症などの時、糖尿病合併妊娠の時、重度の肝障害・腎障害を合併している時、糖尿病昏睡の時などに使用されます。また経口薬で血糖コントロールが不良な時も相対的適応となります。1型糖尿病の方は絶対的な適応です。

インスリンは作用時間により代表的な物として以下に分類されます。
超速効型(作用発現が早く作用時間が短い、食直前投与、自身のインスリン追加分泌を補充し食後の血糖上昇を抑える)、持効型(作用発現が遅く作用時間が長い、基礎インスリン分泌を補充し空腹時血糖を下げる)、混合型(超速効型と中間型を様々な比率であらかじめ混合した物、注射回数を減らすべく開発された物)などです。
これらを組み合わせて患者さん一人一人にあった注射法を決めていきます。

またインスリン製剤は剤型により、プレフィルド製剤(インスリンがあらかじめ装着された注入器一体型、使い捨て)、カートリッジ製剤(ペン型注入器に装着して使用)、バイアル製剤(インスリン専用シリンジで吸って使用)などに分類されます。

さらに重要なことですが、インスリン自己注射、血糖自己測定(簡易血糖測定器による)に対する 充分な指導・教育を受ける必要があります(入院してインスリン導入になることもあります)。外来で導入となる場合は当初は頻回受診の方が安心でしょう。 また次項でお話しする低血糖時、シックデイ時の対応に対しても充分な知識を持つ必要があります。

低血糖

インスリン製剤や経口血糖降下薬使用中におこりうる症状です。薬の種類や使用量を間違えたり、食事が遅れたり、食事量がいつもより少なかったり、いつもより強い運動をした時などにおきる可能性があります。
症状としては交感神経刺激症状(発汗、動悸、手指振戦など)と中枢神経症状(頭痛、目のかすみ、空腹感、眠気、ひどくなると意識レベル低下、異常行動、痙攣など)があります。
経口摂取が可能ならブドウ糖を10~20g摂取します。砂糖では回復が遅れるのでブドウ糖を持参するようにしましょう。意識レベルが低下するような低血糖では医療機関を受診すべきです。
このため御本人が理解するばかりではなく御家族の方や友人、同僚、教師の方々にも低血糖時の対処法を伝えておくべきです。また、いざという時のために糖尿病治療中であることが他者にわかるIDカードを常時携帯すべきです。

シックデイ

糖尿病治療中の方が感冒や胃腸炎などを発症し、発熱・嘔吐・下痢などのため食事が摂れない状態をさします。
このような状態の時は著しい高血糖になったり、ケトアシドーシスという糖尿病昏睡を発症する可能性もあります。シックデイの時には必ず主治医に連絡をとり指示をうけるか、外来受診をするべきです。脱水及び高血糖に対して生理食塩水の点滴(インスリンも混入して)やインスリンの追加投与が必要になる場合もあります。
血糖自己測定を行っている方は普段より頻回の血糖チェックが必要です。場合により入院も必要となります。

追記

以上、一般的な2型糖尿病に関しての説明をさせていただきましたが、実際には個々人の状態に応じオーダーメイドの治療が必要です。
是非、主治医の先生と良くご相談の上で治療方針を決めていってください。独りよがりの治療や思い込みは大変危険です。
みなさんが生活の質を落とすことなく良好な血糖コントロールを維持していただき、明るい健康な毎日が過ごせるよう心からお祈りいたします。

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